この作品は、シルエットの写真を素材として使い、銅版画にしています。 
 写真によって撮られたイメージを更に抽象化し、撮ることと撮られることという写真に必要不可欠な要素から一歩引くことになり、現実にある風景がまるで昔の写真のようなイメージになっています。 
 写真は、光を当てることでイメージ(像)を定着させ物理的に残すものです。写真術の初期はフィルムに 含まれる銀を感光させていました。今はデジタルが主流となりましたが、カメラのセンサーに光が当たることでイメージが確定するという点は変わりません。 
 この感光という仕組みの歴史を遡ると、まず初めに銀メッキした銅板を使ったダゲレオタイプと呼ばれるものが 1839 年に発明されたのち、様々な手法が生み出され、それが写真の内容にも影響し変化してきまし た。写真技術の歴史は、写真の歴史そのものとも言えます。写真が発明されイメージを定着させることが できるようになるずっと以前も、カメラと同じ原理の、カメラ・オブスクラ(camera obscura)という投影法が 存在しました。15 世紀にはレオナルド・ダ・ヴィンチが、16 世紀にはフェルメールが、自分の絵を描くのに 使っていたそうです。

 記憶の中にある風景のように、作られ定着したイメージは、見る人をノスタルジックな気持ちにさせることも あるでしょう。
 人は風景という一見変わらないようなものの中に、自分の思い出や感情を投影します。
 私が作り出すイメージは決してノスタルジックなものを求めて作られたわけではないのですが、この作品を 見る人に訴えかけるものが普遍的でどこか懐かしいものに感じられるようであれば、無機質である建物や、 変わらない風景の中で、どこか自分の記憶に触れる何かがそこにあるからかもしれません。映っている木々 が実際にどこにあるものなのか、新潟なのかフランスなのか、そんなことも想像しながらあなたが自分の記憶を辿っていく時、もしかしたらあなたの知っている懐かしい所に辿りつけるかもしれません。


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