「一瞬の中に永遠がある。」 
 三島由紀夫の『豊穣の海』を読んでいるときに、その 言 葉 に 心 を 打 た れ た 。
 2009 年、私がフランスに住んで数年がすぎた頃、どこを撮っても美しい街である花の都パリは、どこを 撮っても観 光 写 真になってしまうようなつまらなさを もはらんでいた。 何を撮ってもどこかで見たことがあ る写真になってしまうという不満と懸念を抱え、自分 が何をどう表現していいか分からなくなっていた。自 分 ら し さ と は 何 か 、自 分 に し か 出 来 な い 表 現 と は 何 か思い悩む日々。シャッターを押す指はどんどん重くなっていた。 
 そんなときに、ふと手にとった三島由紀夫の小説で冒頭の言葉を目にした。 「認識に執して、自分の認識の根源を、あの永遠で、し か も 一 瞬 一 瞬 惜 し げ も なく 世 界 を 廃 棄 して 更 新 す る阿頼耶識と、同一視することを肯がえんじない」(豊饒の 海 第三部『暁の寺』)という一文に象徴されるように、華 厳経の「一瞬即永遠、永遠即一瞬」の概念がこの四 部作の物語の中心を貫いているように思う。
 この言葉を読んだとき、今までシャッターを押せな かった代わりに、まぶたの奥に焼き付いていたイメー ジ が 湧 き 上 が って き た 。 僕 は すぐ に 鉛 筆 を 手 に 取 り デッサンをして頭の中のイメージを固め、カメラと三 脚を持って夜の街へと飛び出した。

 写真は映された瞬間から過去になり、写真に映ったものを見る時と同時に、過去にそこにあったものを見 ていることになります。
 パリは、中心を流れるセーヌ川によって水運の町として栄えたという歴史があります。パリ市の紋章には ラテン語で “Fluctuat nec mergitur”と書いてあり、日本語に訳すと “たゆたえども沈まず” という意味 になります。揺れるけれども沈まないというのは、変わっていくけれども変わらないのがパリということなので しょう。写真が発明されたのと同じ 19 世紀中頃、ガス灯が発明され町に設置された結果、夜の散歩が流行ったそうです。現代ではガス灯は姿を消しましたが、今でも夜のセーヌ川岸を歩いていると、川面に映って揺らめく街灯の光に目がいきます。そのたくさんの光は時折通過する船によって作られた波でゆらゆ らと踊ります。光のダンスを眺めながら、たゆたっても決して沈まないこの揺らめく光そのものが、瞬間と永遠性の両方を現しているように思えました。 
 この作品シリーズでは、一瞬や永遠という時間の概念を表現するのに、シャッタースピードを変えて撮ったりしています。一瞬を切り取るのが写真という見方もあれば、一定の時間を凝縮し一枚に定着させることも 写真の広がりの一つでもあると言えるのではないでしょうか。いわば時間を二次元に定着させるのです。
 数秒間揺れ動く光をフィルムに定着させながら、数々の色や動きの些細な転移を1 枚の写真に収め内包 していくことで、華厳経におけるマクロの世界観と似た、一瞬の中にある永遠性に近づけるのではないかと思っています。
La lumière a toujours vécu avec l’humain
Longtemps, la Lumière du soleil fut un Dieu qui donna récolte aux paysans
Ikaros priait d’avoir des ailes pour se rapprocher de la lumière et
les architectures gothiques se montaient vers le ciel pour l’atteindre.
La lumière a toujours été le symbol de l’espoir et la force ultime qui éblouit le peuple.


Cependant, il n’y a rien qui ne change pas.
Le visage de la lumière dépend elle-même du soleil
Si tout change en permanence, cela est un fait inchangeable.
C’est pour cela que nous recherchons l’eternel dans le changement quotidien

En gravant la lumière changeante en une image, peut-être que nous gravons l’espoir et le pouvoir
en une chose eternelle.

Une photographie, c’est justement un dessin de la lumière dans son instanté en plein millieu du temps qui change en permanence.
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